三章(8)

 護衛衆の二人はシュマを巫女殿の大扉の前まで連れてくると、ようやくシュマを放し中へ戻っていった。
 直後、鍵のかけられる冷たい金属の音がする。その後はもう、シュマがいくら大扉を押したところで、シュマの背よりも高いそれはびくともしなかった。
 シュマはしばらくの間、収まりきらない怒りに任せて扉を叩いていたが、どうやったって開きはしないのだとややあって悟る。その途端力が抜けて、シュマは力なくその場に座り込んでいた。
 無理矢理抵抗していたせいで、腕や足がずきずきと痛んだ。巫女殿の壁に背をつけて空を見上げると、半月とその周りに散る星々の姿がある。
 ――月と星は、この籠に開いた穴だという。その向こうには神々の世界が広がっていて、だから煌めくあの輝きは、神界の光が漏れたもの。神々の世界は、あのような輝きに溢れたそれはそれは美しい世界なのだ、と。
「くそお……っ」
 シュマは握った拳を地面に打ち付ける。じん、と痛みが伝わってきた。
 その直後シュマの目から水滴がこぼれ落ちる。あまりのことに慌ててぬぐっても、それは後から後から溢れ出してくる。歯を食いしばった隙間から嗚咽が漏れた。
 さっきまであれほどシュマの中で荒れ狂っていた熱は、いつの間にか氷のような冷たさに変わっていた。形も、やり場もない思いが、シュマの中に重く溜まっていた。
「くそ……」
 何もかもが悔しくてやるせない。何もできない自分のことも、トエの冷たすぎる態度も軽蔑も。
「メルゥ……」
 そして何より、もうメルゥはいないのだという事実が深くシュマの胸を突く。
 訳の分からない状況に放り込まれ、行き先も見えない。――そして、あの少女はもうどうやったってここにはいない。
「もう一度、会いたいよ、メルゥ――……」
 彼女の笑顔が一瞬だけ浮かんで、すぐにシュマの内の暗闇へと崩れ落ちていった。